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2026/10/26

住まいと暮らしのこと(現場便り)

「広いリビングが欲しい。」そのリビングの上の2階は何が支えるのか。

令和8年熊本地震の被災地を訪れて

今年の7月28日、熊本県で最大震度7を観測する「令和8年熊本地震」が発生しました。

被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

10月22日、私は熊本県の益城町、八代市、氷川町を訪れ、地震によって被害を受けた建物を視察してきました。倒壊した住宅や大きく傾いた建物、損傷した神社やお寺。現地で目にした光景は、住宅をつくる仕事に携わる私にとって、改めて多くのことを考えさせられるものでした。

中でも、特に強く印象に残ったことがあります。

それは、2階部分が残っているにもかかわらず、
その下の1階が押しつぶされるように倒壊していた住宅です。

屋根も残っている。2階の壁も残っている。
それなのに、その下にあるはずの1階が大きく損傷している。

その光景を目の当たりにして、改めて感じたことがあります。

2階を支える1階の構造が、どれほど重要なのか。

そして、私たちが日々行っている家づくりの中で、
そのことをどれだけ真剣に考えなければならないのか。

今回は、現地で感じたことをお伝えしたいと思います。

広いリビング、大きな窓。それは誰もが憧れる住まい。

家づくりのご相談を受ける中で、多くのお客様からこんなご希望をいただきます。

「できるだけ広いリビングにしたい」
「柱や壁のない、開放的な空間が欲しい」
「大きな窓を設けて、明るい家にしたい」

私も、その気持ちはよく分かります。

家族が集まるリビングは、ゆったりと心地よく過ごせる場所であってほしい。

設計する側としても、その願いをできる限り叶えたいと思っています。

でも、ここで一つ考えていただきたいことがあります。

その広いリビングの上にある2階を、いったい何が支えているのでしょうか。

2階から伝わる地震の力は、どこへ行くのか。

2階には寝室や子ども部屋があり、その上には屋根があります。
地震が発生すると、建物には大きな水平方向の力が作用します。

2階に生じた地震の力は、床や耐力壁、柱、梁などを通じて1階へ。
そして基礎から地盤へと伝えられます。

では、1階に十分な耐力壁がなかったらどうなるのでしょうか。

2階の耐力壁を支える位置に、適切な構造が計画されていなかったら?

地震の力は、途中で消えてなくなるわけではありません。

もちろん、梁や床を通じて別の耐力壁へ力を伝える設計も可能です。
しかし、そのためには柱や梁だけでなく接合部や床、基礎まで含めた検討が必要になります。

大切なのは、地震の力をどこで受け止め、
どのように地盤まで伝えるのかを建物全体で考えることです。

立派な梁があっても、家を守れるとは限らない。

今回の視察では、太く立派な梁が使われている建物も見かけました。
しかし、そのような建物でも柱が折れ大きく損傷しているものがありました。

また、瓦屋根の住宅や一面に開口部が多く設けられた建物にも倒壊が見られました。

国土技術政策総合研究所と建築研究所が公表した被害調査でも、古い木造住宅や、建物正面に開口部が多い店舗・社寺建築などの倒壊が報告されています。

ただし、瓦屋根や大きな窓そのものが倒壊の原因だと断定することはできません。建物の重量、耐力壁の配置、柱や梁の強度、接合部の状態、地盤条件など、さまざまな要因が関係します。

現地で外観を見ただけでは、個々の建物の倒壊原因までは分かりません。それでも、今回の視察を通じて改めて感じたことがあります。

家は、太い柱や立派な梁を使えば、それだけで地震に強くなるわけではないということです。

一つひとつの部材が、どのように力を受け、どこへ伝えるのか。

建物全体の構造が、きちんとつながっていることが重要なのです。

耐震等級3という数字だけで終わらせたくない。

ココチの家では、許容応力度計算による耐震等級3を大切にしています。

許容応力度計算とは、建物に作用する力に対して、柱や梁、耐力壁、接合部、基礎などが必要な強度を持っているかを確認する構造計算です。

単に壁の量を増やせばいいというものではありません。

・壁の配置は適切か。
・2階から1階へ、力がどのように伝わるのか。
・柱や梁に無理な負担がかかっていないか。
接合部や基礎まで含めて、安全性を確認する必要があります。

もちろん、耐震等級3であれば、どんな地震でも絶対に壊れないというわけではありません。

それでも、構造の安全性を計算によって確かめることは、
住宅をつくる者の大切な責任だと考えています。

広いリビングを諦めてほしいわけではありません。

今回、被災地で倒壊した住宅を目の当たりにして、改めて思いました。

家は、完成したときに美しければいいわけではありません。

広いリビングがあることも、大きな窓があることも、
素敵なデザインであることも、もちろん大切です。

でも、その家で暮らす人の命を守ることは
何よりも優先されなければならないと思っています。

そして、できることなら大きな地震の後も、
住み慣れた家で暮らし続けられる住まいであってほしい。

地震の被害を完全になくすことはできません。

だからこそ、設計の段階でできる限りのことを考え
備えておく必要があるのだと思います。

広いリビングを諦めてください、と言いたいのではありません。

その広いリビングを安全に実現する方法を考える。
開放的な空間と、地震に強い構造を両立させる。

それこそが、私たち設計者の仕事だと思っています。

今回の熊本での視察は、私たちが日々行っている家づくりの意味を、
もう一度深く考える機会となりました。

家は、そこで暮らす人の人生を支える場所です。

だからこそ目に見えるデザインだけでなく、
完成すると見えなくなってしまう構造にも、決して妥協したくありません。

帰りたくなる家であること。

そして、災害の後も、帰れる家であること。

これからも、その両方を大切にした家づくりを続けていきたいと思います。


【参考資料】
・気象庁「令和8年熊本地震について」(2026年7月28日)
・国土技術政策総合研究所・建築研究所「令和8年熊本地震による木造建築物の被害調査報告(速報)」(2026年8月31日)

この記事を書いた人

原田 恵美|ココチの家

二級建築士/既存住宅状況調査技術者/気密測定士/インテリアコーディネーター

京都で住宅の設計・施工に携わり、高気密・高断熱住宅の家づくりだけでなく、気密測定や風量測定など、完成した住宅の性能確認にも取り組んでいます。

性能の数字を競うことではなく、「設計した性能が実際の住まいで発揮されているか」を確認し、ご家族が長く安心して暮らせる住まいをつくることを大切にしています。

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